IRの力で企業価値向上に貢献する ジェイ・フェニックス・リサーチ株式会社
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ジェイ・フェニックス・リサーチ株式会社では、心をつかむ企業価値の創造経営の3要素として「①挑戦者としての社会貢献」「②ステークホルダーの絆」「③信頼・安心」が重要だと考えています。その三つを実践している上場企業の経営者様にインタビューを行い、他の上場企業の指針として記事にしていく予定です。第一回では、当社の2005年以来の顧客であり、代表の宮下が2013年~16年まで上席執行役員を兼務した、製造派遣業で2万人以上の社員を抱えるUTグループ株式会社[2146]の代表取締役社長兼CEO若山陽一様にインタビューを実施しました。(インタビュー実施時、2019年2月14日)
右:代表取締役社長兼CEO若山陽一様、左、弊社代表取締役 宮下修
宮下:若山社長、今日はインタビューの機会を頂戴し、ありがとうございます。まずは、2019年3月期の第3四半期決算が2月7日に発表になりましたが、前期比で売上高は、25.8%の増収、営業利益は66.2%の増益と絶好調ですね。
若山:おかげ様で、好調な需要とそれに応える採用力、それから、より高い単価の案件、大ロットの案件が増えたことが良い決算をもたらしています。
宮下:こうした高成長を実現するには、時代が望む社会貢献を背景とした事業機会をとらえていることが重要かと思いますが、UTグループが、社会貢献として重視する点はなんでしょうか?
若山:UTグループでは、UTの造語ですが、「仕事創発価値」という概念を、会社を図る尺度として提唱しています。これは、人件費と営業利益を足したもので、雇用創出が生み出した価値だと考えます。これを最大化することを、つまり、雇用創出こそが事業の本質的目的と唱えています。
宮下:素晴らしい考えですね。時代が望むという点では、雇用創出という「量」に加えて、仕事の「質」の視点も重要だと考えられますが、その点で重視していることはどのようなことでしょうか?
若山:当社は、現場で働いている人が喜んでくれることを「質」として重視しています。それが当社の派遣社員のモチベーションの向上につながり、製造業の顧客に対して優秀な人材を提供することにつながると考えています。当社は1995年創業ですが、2000年初頭、いわゆるIT不況で経営が悪化したときに、景気の波に耐えられる会社の目的を作るために全社員で「志の会」を作りました。我々社員が最も感動したことを会社の目的にするべきだと徹底して議論しました。いろいろ意見が出ましたが、集約すると、「現場で働く人が喜んでくれること」が最も我々が感動したことでした。その思いを目的にするために、ミッションステートメント「はたらく力で、イキイキをつくる。」を作り上げました。
宮下:「仕事創発価値の最大化」と「現場で働く人の喜び」の2つを同時に追い求めることは、低成長時代の日本においてそう簡単なことではありませんね。特に、UTグループが属している派遣業界においては、雇用主と現場の指揮命令系統が別々で連携することが難しく、派遣労働者の「働く喜び」を実現する仕組みを作ることは容易でないと思います。その中で、挑戦者としての社会貢献に取り組んでいるという気がいたします。どのような仕組みで2つを同時に追い求めているのか、もう少し詳しく説明をお願いいたします。
若山:そうですね。簡単なことではありませんでした。本質を追求し続ける志の高さに加えて、いろいろ運にも恵まれて、事業がうまく成長してきたと思っています。こだわったのは三つの考えです。それは「安心・つながり・成長」という概念です。
宮下:「安心・つながり・成長」とはわかりやすい言葉ですね。具体的にどのようなことをおこなっているのでしょうか?
若山:まず「安心」ですが、現場で働く人が喜びを感じるには、第一に「安心して働ける環境があること」が重要だと考えています。身分の不安定さをなくすために当社では、派遣社員の雇用形態は原則として正社員雇用としています。これで職を失う心配が有期雇用社員よりも少なくなります。金銭面では、就業初日から給料の前借ができる制度を整えるなど、心の面では、一人でも「入社式」を行い、温かく職場に迎えること、社宅完備で住居に不安がないこと、など、働く人が「安心」する環境を整備しています。また、健康管理支援なども強化しており、お金、心、健康など多様な視点で、安心して働ける環境づくりを進めています。最近力を入れているのは、全社員の20%が活用する社員持ち株会を始め将来に備えた資産形成をサポートする様々なサービスの開発です。UTに入れば、一生、金銭面で安心できる環境を全社員に築き上げていきたいですね。まだまだ、やることはたくさんあり、課題もありますが、とにかく、すべての社員が安心して働ける仕組みをどんどん整備していっていきたいと考えております。
宮下:なるほど、かなり多岐にわたる仕組みで「安心」を築き上げていることがよくわかりました。ただ、一方で、景気が悪化して契約を切られると、正社員雇用だとコストコントロールがうまくいかず、経営危機に陥ってしまうリスクについてはどうお考えですか?
若山:ご指摘の通りのリスクが確かにあります。実はリーマンショックのときがそうでした。売上の減少が激しく、正社員雇用のため人員削減は、一人一人丁寧に納得してご理解をしていただいた上で同意を得て進めることが必要なため、赤字でもコスト削減が後手に回り非常に厳しい状況に陥りました。ただ、その時に、実は全く売上が減らない職場もあったのです。それは規模が1現場100人以上の職場で、当社の人材が現場のシェアの3割を超えているところでした。そうした職場では、当社よりも下位の競合企業が契約打ち切りの対象になり、当社は、ほとんど契約をきられませんでした。そこから得た教訓で、今は、大規模な事業所でトップシェアを取る戦略を重視しています。リーマンショックのときは、そうした職場は派遣社員の半分以下でしたが、いまは、大半がそのような大規模でトップシェアのところとなっています。多少の景気の波が来ても売上高はそうさがらない強固な体質となっています。より「安心」できる環境を作り上げているといえます。
宮下:なるほど、長年「安心」にこだわってきた努力の積み重ねの結果、築き上げてきた基盤が強みになっているということですね。それでは次に「つながり」についてご説明をお願いいたします。」
若山:「つながり」の仕組みとして最も重視しているのが「チーム派遣」です。ひとりでぽつんと顧客の職場の中で派遣されても、なかなか顧客の社員となじめず孤立する可能性があります。そうした点を避けるために、UTグループでは30名以上のチームで働ける職場にこだわっています。必ずリーダーがいて全社員をケアすることでつながりが生まれていきます。UTグループでは2000年代で成長した時はそうした職場は半導体での職場しか存在しなかったため半導体に集中していきました。リーマンショックの後の回復過程においては半導体のみならず多様な業界でもそのようなチームでの派遣の良さが認められ様々な業界で成長することになりました。
宮下:「チーム派遣」という仕組みは、確かに「つながり」を象徴する仕組みですね。そのほかにどのような工夫をされているのですか?
若山:職場体験を事前にバーチャルリアリティーで疑似体験し職場とのつながりを事前に強化しています。そのほか、UTグループ等の他の社員とのつながりを強化するために様々なコミニケーションアプリを導入しております。また、地域との連携を重視し社会に地域社会に溶け込めるようなイベントを各地域で行うなど、多様な取り組みを展開しています。アプリケーションでは、どんな仕事があるのか、どんな仲間がいるのかなど社内や派遣先の状況を「見える化」しております。経験豊かな先輩や、キャリアアップをサポートするキャリアパートナーとはアプリ上の更新から実際の面談を申し込むことができます。オンタイムだけではなく趣味のサークルやコミュニティ活動地域のお店情報お勧めのスポット、休日の過ごし方など、働く地域の情報も発信することでオフタイムを含めた生活全般のつながりを作っています。
宮下:アプリ開発などは、ある程度の規模がないと取り組めない仕組みですね。次に「成長」についてご説明をお願いします。
若山:成長を支える仕組みはキャリア形成支援です。UTグループにおいては多様なキャリアパスを切り開くことができます。それを支えるために必要な教育プログラムを独自に構築しています。世界的な製造業のIoTの活用でリードする、ドイツのシーメンス社とは研修プログラムで提携を行っており独自の教育プログラムを構築しております。また自宅でも学習可能なe-learningを活用しつつ誰もが頑張ればキャリア形成できる環境を整備しております。特に重要なのはキャリア形成の基盤となる一人ひとりの適切な評価です。UTグループではお客様と連携し「ジョブグレード制度」と言う形で適切な評価制度をお客様と我々つまり派遣元と派遣先の企業で、共同で人を育てると言う意識を持って整備しております。この仕組みにより適切なキャリア形成が段階を踏んで無理なく実施できるようになります。社内的には「エントリー制度」と言う、マネージャーや執行役員に立候補できる仕組みを整備しております。実績とやる気があれば入社間もなくでもマネージャーや執行役員に立候補できる仕組みです。実際にこのような仕組みにより未経験だった時給900円の社員が執行役員まで昇格したケースもあります。
宮下:ジョブグレード制度やエントリー制度はなかなか簡単には定着できないような仕組みですね。顧客との信頼関係が相当ないとジョブグレード制度と言うものは運用することが非常に難しそうに思えます。
若山:そうですね。ジョブグレード制度は本当に顧客と当社の人事制度を統合していくような仕組みなので相当の信頼関係がないと築けない制度です。長年提案し続けた結果、大きく広がりを見せております。
宮下:様々な取り組みについて詳細にご説明いただきありがとうございます。これまでお教えいただいたUTグループの取り組みを少し整理させていただければと思います。企業価値の理論的な三要素は、売上成長、投下した資本に対する収益性、事業リスクの抑制、難しい言葉で言えば後の二つの要素は、投下収益性つまりROICの向上、資本コストの抑制つまりWACCの低下、となります。ただ、これだと一般的には全く「感動しない」ので、ジェイ・フェニックス・リサーチではもっと、ワクワクする概念で整理しております。それは、「挑戦者としての社会貢献による成長、Growthのワクワク感」「全てのステークホルダーの絆による収益性と資産効率性の向上:Connectionのワクワク感」「信頼・安心の向上:Confidenceのワクワク感」という概念です。頭文字をとってGCC経営※1と名付けています。これが実践できれば、いわゆるマズローの心理学で整理された人間の5つ※2の欲求を満たし、幸せと企業価値の向上が同時達成できると整理しています。UTグループはまさにこの考え方できれいに整理できます。
若山:なるほど、理論的な企業価値の本質と、UTグループの経営の仕組みが合致しているということですね。本質を追求していけば、おのずと企業価値の本質に収斂していくということですね。
※1:ジェイ・フェニックス・リサーチの登録商標として申請中。
※2:最近では自己超越の欲求も加えて6つ目の段階もあるとの考え方がある
宮下:その通りです。当社は、創業15年の中で、いろいろな企業をご支援してきましたが、これほどきれいに企業価値の本質を経営の仕組みにビルドインされている企業はなかなかないと感じております。これほどまでに本質にこだわる経営がなされるようになったのは、若山社長の生い立ちに関係しているとおもっております。そのあたりをご説明していただけますか?
若山:最初のきっかけは、高校2年の時にバイクで事故だと思います。内臓破裂で肝臓の4分の3と胆のうを摘出するなど大怪我を負いながらも一命をとり止めました。意識が戻った時に生と死の黙示を得たような気がしました。スイッチをオンからオフに切ったように意識が途切れ四日間の記憶が全然ありません。生と死の境界をはっきり感じました。死んだら何もない、無になるなと強く思いました。生きている間に自分が主体的な人生を得たいと思うようになりました。それが本質を追求する姿勢の原点です。
宮下:なるほど、生きるか死ぬかの経験で、本質的な人生の過ごし方を逆に追求するようになったということですね。
若山:そうですね。本質は、突き詰めると、感動を伴うものだと思っています。上場企業の社長としては株主に対して責任があるので、時価総額の増大が重要だとは思いますが、それよりも重要なのは、感動の総額が重要だと考えています。感動にこだわることで本質をこだわることにつながると思っています。
宮下:感動がないものに本質はないという考え方ですね。確かに、感動を与えることができれば、事業としても競争優位性が高まっていきますね。
若山:そうですね。そういう視点から考えると、自身の幸せの定義は、金ではなく感動の数だと思っています。UTグループも現場では働く人の喜びでもらえる感動を与えることが経営の根幹であり、本質だと思っています。感動を追求するためには、やはり何かに挑戦する姿勢が大事だと思っています。趣味で始めた登山ではエベレストに挑戦し、キックボクシングではK1アマチュア大会のメインイベントに出場し勝利をおさめることにもつながりました。他にもサーフィン、スノーボード、乗馬と多才な趣味を持って常に「感動に挑戦する」気持ちを大事にしてきました。こうした姿勢が、経営において本質を追求する姿勢につながっていると思います。
宮下:自分に対して、感動を追求する姿勢を貫いているということですね。そういう姿勢を示した、過去の象徴的なエピソードなどをお教えいただければと思います。
若山:そうですね。余談ですが、仕事を辞め沖縄に移住する計画の役員が、「自由を求めて。」と発言したことに対して、「自由というのは、何もしなくのんびりと過ごすようなことを言うのではなく、努力や挑戦を通じて自己表現することではないか。」と言ったことがあります。努力や挑戦などで感動を追求する姿勢のない自由にあまり価値を感じません。また、最近は副業を認めるような風潮がありますが、これについてはどちらかというとあまり賛成はしていません。「副業を禁止するつもりはないが、多くの場合、選択肢が広がったように見えて、実は自分の時間を分散しただけに過ぎなく、一つのことを成就させるには、一つのことに集中することが必要」との考えが大事だと思っています。一つのことに集中することを「オールベット、すなわち覚悟」だと考えています。経営には覚悟が必要だともおもっています。その覚悟が感動を生み出す経営につながると考えています。また、これも余談ですが、昔、霊媒師から「守護霊が言っていますよ。」と言われたときに、「仮に守護霊なるものがいたとして、なぜ守護霊の言っていることが正しいと言えるのか?」と聞き、霊媒師を黙らせたことがあります。とことん本質を追求する姿勢をどのようなときでも大切にしたいと思います。
宮下:最後に座右の銘をお教え下さい。
若山:座右の銘は「想いが行動を変え、行動が現実を変える。」ですね。この言葉の通りに会社経営をこれからも推進していきたいと思います。
宮下:確かに、若山社長の人生は、座右の銘通りですね。これからもぜひすべてのステークホルダーの心をつかむ経営を発展させていってください。ありがとうございました。
以上