人口減少時代の経営戦略の切り札:C×N型経営の追求
ジェイフェニックスリサーチでは、様々な企業の調査分析を行っているが、今後成功を収める企業のキーワード、21世紀に日本企業が生き残るために必要な経営戦略のコンセプトとして「C×N型経営」というものが重要なのではないかと考えている。
すなわち、C×N型経営を追求しているかどうかが、今後の株式投資の選択、及び経営戦略構築において極めて重要になると考えている。
以下のC×N型経営とは何か。なぜ、それが重要なのかを説明していきたい。
企業は、消費者、顧客(Consumer, Clients, Customer)すなわち「C」のニーズ(Needs、「N」)に対して商品・サービスを提供する。
企業は、CのどのNに焦点を合わせて商品、サービスを提供するのか、ということを意思決定する。企業から見れば、Nは少ないほうが楽であり、効率的である。しかし、Nが少ないとCから見れば、なんだ一つのニーズしかやってくれないの?となり不満になる。一方で、Nが多いほど、Cから見れば「責任感のある良い企業だ」ということになる。
大量生産、大量消費時代は、極端な話な見方をすればC×1(Nは1個だけ)を追求した時代といえよう。 顧客の特定のニーズに的を絞って、大量に生産をすると効率的である。大量に仕入れれば、供給者に対しても強きのプライシングができる。
しかし、時代は急速にC×N時代に変化している。
理由は3つである。
第一にCのニーズの多様化である。先進国において消費者は物質に満ち溢れており、より自分の価値感にあったNを追求するようになっている。Nは多様化してくるわけである。また、グローバル経済においてNは文化毎に変化する。よってグロバール化が進めば、Nは多様化する。
第二は、技術のオープン化である。 例えばであるが、テレビを売ることは、10年前よりも現在の方がはるかに難しくなっている。テレビはインターネットや各種通信環境と連動しており、それらの設定により非常多様なNが生まれてくる。ある消費者は、地上波しか興味がないかもしれない。一方で、別の消費者は、インターネット、ケーブルテレビ、衛星テレビ、ゲームもテレビで楽しみたいと思うかもしれない。Nの数は非常に多様化するわけである。
また、これはBtoBの世界でも同じである。企業が使う様々な通信環境は非常に複雑になっている。企業が予め用意したパッケージにあわせることが困難になり、より複雑なオープンな通信環境やクラウドに対応できる技術者を各種そろえた業者ではないと、企業の理想のICT環境を構築することは困難になっている。
第三はソーシャルメディアの進展である。
企業と消費者の情報はソーシャルメディアの普及により、対等な立場となってきている。また、ソーシャルメディアは様々な価値感について議論する場となり、企業に対する評価も、単に製品やサービスの内容だけでなく、企業の社会貢献に対する考え方が重要になってきている。すると、様々な消費者のニーズを汲み取って、企業も対応する必要が、これまで以上に拡大している。
効率性を重視してC×1(すなわちNが1つしかない)を追求してきた企業は、よほど明確な差別化がない限り、C×Nに対応するビジネスモデルへと転換しなければ、21世紀において競争に生き残ることは困難になってくるのではないだろうか。
C×N時代において、一番飛躍する可能性のあるビジネスモデルはなんだろうか?
私は、パパママショップを有効活用するビジネスではないかと思っている。なぜならば、地域に根ざしたパパママショップほど幅広いNに対応できる情報を持っていると考えられるからだ。
最近の日経ビジネスでパナソニックショップが復活しており、収益性が向上してきているとの話がでていたが、まさに、それがC×N時代の経営の最先端であると考えられる。
大手家電販売店は、C×1を追求してきたように見える。すなわち、売って後はおしまい、というビジネスモデルである。きめ細かく、インターネットや各種機器の設定などを、ニーズに応じて対応することは、一応やっているとは思うが、地域の電気店にくらべれば、レスポンスの速さではかなわない。
一方、パナソニックショップは、地域に根ざした各顧客(C)の幅広いニーズ(N)にきめ細かく、素早く対応してくれる。
まさに、C×N時代のビジネスモデルを実践していると言える。
日本経済がだめな理由の一つとして、非効率なパパママショップが多いからだ、との論調があるが、C×N時代は、パパママショップは、実は有効な販売チャンネルとして再び輝く可能性があるといえる。
もちろん、C×Nを実践するための様々な仕組みが必要であることは言うまでもない。大型店舗にはないC×N対応力で差別化すれば、非効率といわれるパパママショップが宝の山になるかもしれない。
技術の変化、社会情勢の変化で、強みは弱みへ、逆に弱みは強みへと一気に変わるときがある。
ニーズ多様化、技術のオープン化、ソーシャルメディア化は、日本のパパママショップを宝の山に変える大チャンスである。それは、寂れた駅前商店街の復活につながることになろう。
なお、この時代においてもC×1時代の経営から脱却できない企業も多いようである。
とある業界であるが、どう見ても割高な店舗チェーンを購入している企業があるという。C×1時代において、数は力である。よって、数の力を追求しようと考えている企業から見れば、多少高くでも店舗数がふえれば後から儲けはでてくると考えるかもしれない。しかし、私はそれはC×Nの重要性が高まっている中で非常にリスクの高いビジネスモデルではないかと思っている。
C×1で生き残るためには、よほどすごい差別化がないと、今後はますます困難になってくるであろう。
C×1は規模の経済、C×Nは範囲の経済の追求を意味するが、時代は急速に規模の経済から範囲の経済追求時代へと変わっていると認識すべきとであろう。
なぜそれではC×N型経営はこれまでうまく機能せずに、C×1型経営がいままでは機能したのであろうか?これはこれまでのICT技術では柔軟性が低く、あらゆるところで情報処理において大きなサイズのバッチ処理をする必要があったからではないかと私は思う。
ICT技術がすすんでいない場合、全国から情報を集めることは一ヶ月に1回であったものが、最先端技術を使えば毎日集めて議論することが可能になってきている。すると、一度に処理する情報のサイズがきめ細かくなるため、きめ細かいCのニーズに対応することが、以前よりもずっと可能になっているわけである。情報処理サイズが大きければ、細かい対応が困難になり、対応可能なNの数も少なくなり、結局はC×1を追求しようということになると考察できる。
そのような時代にC×Nを、顧客重視で追求してきた企業は、昔のICT環境ではどうしてもコスト高となり、それが成長制約となって、大抵の場合業界トップとはなっていないのではないだろうか?しかし、C×N時代では、顧客重視を愚直に追及してきた企業が、うまくICT環境を使いこなせば、C×1型企業から顧客を奪っていくといえよう。その典型が地域に根ざしたパパママショップではないだろうか。。。
さらに、C×N型経営は、人口減少時代において企業が成長を追求する上で極めて重要な意味をもつ。C×N型経営は、人口減少時代に成長を可能にする経営である。Cは例えば日本だと1億人ちょっとである。しかも今後どんどん減ってくる。C×1型経営では成長に限界がある。
しかし、C×Nにすればたちどころに高成長企業になる可能性がある。Nが1、2、3となれば、市場規模はあっという間に3倍になるわけだ。
日本は世界でも低成長、正確に言えば人口減少においては最先端の国だ、しかし、低成長と言ってもそれは人口の話であ、C×Nの発想があれば、再び成長路線を歩むことが可能かもしれない。
そして、この日本でC×N型経営で切磋琢磨すれば、他の、遅れて人口減少時代に突入する国に対しても経営ノウハウで優位に立つことになる。日本でC×N型経営で競争優位性を築けば、グローバル展開が可能となるのではないか?
日本の弱みと言われた、人口減少、パパママショップ、という要素を、逆手にとって強みにする経営を追求していくことが、21世紀の経営で極めて重要な視点になると考えることができよう。