屈指の高収益企業コーセル(証券コード6905)の秘密
■国内電機セクターで屈指の高収益企業
電子機器の各機能が正確に稼動するために必要な電気エネルギーを供給するための電源モジュール部品を製造しているコーセルは、電機セクターで屈指の高収益を誇る。大手電機・電子部品メーカーが軒並み赤字化する中で、前期でも13.8%の高い営業利益率を達成している。3年前では28%と、売上高は200億円台と中堅規模であるものの、国内有数の高収益体質を誇る(下記参照)。
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前期 |
2期前 |
3期前 |
決算期 |
2009年5月期 |
2008年5月期 |
2007年5月期 |
売上高 |
17,318百万円 |
22,708百万円 |
23,286百万円 |
営業利益 |
2,486百万円 |
5,582百万円 |
6,601百万円 |
営業利益率 |
14.3% |
24.5% |
28.4% |
■高収益の秘密:驚くほど整合性がとれた戦略の設計図
−ビジネスモデル・経営資源・ケイパビリティの整合性−
このような高収益体質は、ビジネスモデル・経営資源・ケイパビリティの3つが全て整合性をもってマネジメントされていることで達成されている。簡潔にまとめると以下のようになる。
★ビジネスモデルの骨子とその前提
骨子:標準電源モジュールだけを製造し、大量生産に利用されるカスタマイズされた電源モジュールは製造しない。
前提:大量生産のカスタマイズされた電源モジュールは、顧客の立場が強くなり価格引き下げ圧力が高い。標準電源モジュールは、量がさほど出ない代わりに価格引き下げ圧力が小さいため収益性が高い。
★ビジネスモデルを実現するために差別化された経営資源
?@代理店網:全国に少量でも取り扱う代理店網を構築。容易に代理店網を全国に展開できないため差別化の源泉となる。
?A多品種少量生産・納期体制:少量でもオーダーに応じて製造する生産体制を構築。段取時間の短縮化を推進。現場の製造従業員を段取時間短縮化を推進できるように研修教育を実施。また、段取時間短縮化のための各種機械を独自開発。
?Bシミュレーション技術:短期間で多種の製品を開発するために、試作をなるべく少なくするシミュレーション技術を構築。日本でも有数の能力を構築。
?C見積の時間短縮・正確化:短時間で見積を正確に計算できる能力を営業マンが持っており、クイックレスポンスが可能になりトータルな短納期を実現。
★経営資源を活用するケイパビリティ
?@代理店網をサポートする手厚い情報提供を行う能力
?A多品種少量生産・納期体制を運用するために、末端の社員の多くがEXCELでマクロが操作できるほど、一人一人の情報処理能力を向上させるための研修ノウハウ
?Bシミュレーション技術を常に向上させるために、製造現場と開発現場を定期的に交流させる人事政策を運用
?C営業マンは全てエンジニアであり、製造現場、開発現場を経験し、バリューチェーンを全て理解している。よって、見積が正確にかつ短期間で営業マンが独自に計算ができる。そのような能力を持つ営業マンを養成するために意図的に製造現場、開発現場、営業現場をローテーションする人事政策を実施し、また、エンジニアが原価計算できるように教育を実施
■徹底したコスト削減
さらに驚かされるのは、徹底したコスト削減である。決算説明会で社長と名刺交換した後、独自取材を申し込んだときに、いただいた電話番号に電話したところ、すぐに社長本人が出られた。東証一部上場企業の社長にも関わらず、特定の秘書はおらず、社長が自ら電話を取るそうである。戦略の設計図の整合性が取れている上、高収益でもコスト削減に手を緩めないこの企業体質には非常に驚かれる。
■常にアップデート、改善する戦略の設計図
また、さらに注目されることは、あえて収益性をおとしても5年や10年に一度は全ての経営資源が最新の技術と整合性が取れるのか、徹底的に研修を行うそうである。過去3年は、開発と製造の間の整合性をとり早期の歩留まり率向上を目指すため、あえて開発件数を減らしたそうである。そのような時期でも20%程度の利益率を達成しているから驚かされる。しかも、その時期は終了して、歩留まり率向上が思い通り達成でき、新製品開発も件数も2−3割は増加させるという。
TDKや外国勢など、手ごわい大手企業がたくさんある。しかし、これほどまでに見事な戦略の設計図を築いて実行している企業を見たことがない。
外部競争環境及び顧客との力関係において深く洞察した、ロジックの通ったビジネスモデルを設定し、それを達成するために必要な経営資源を築き、また、その経営資源を運用するケイパビリティを身につけるという、経営学のまさに見事な手本を実践している。
コーセルは、生き残りをかけて必死になっている全ての日本企業の手本となる企業ではないかと思っている。